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水草(みずくさ)
単に「水辺に生息する植物である」とも言えますが、専門家の方の解説(田中 法生 『異端の植物「水草」を科学する』)によれば、以下の定義になります。
「種子または胞子が水底または水中で発芽し、生活環の少なくとも一時期は抽水・枕水・浮揚あるいは浮遊状態で過ごす」植物。(スカルソープより)
また著者の解説では「一度陸上に進出した植物が、再び水中へ進出したもの」という定義も採用しています。
この2つの定義を組み合わせ、「陸上植物から再び水中生活に進出した植物であり、光合成をする器官(葉や茎)が常に、もしくは一年の数週間以上、水中にあるか、または水面に浮いているもの」となるようです。
つまり一時でも水草的な生息をするものは、おおまかに分ければ水草といえる。
ちなみに植物プランクトン、ワカメや昆布は水草ではありません。
海に生える水草を海藻(かいそう)と区別するために海草(うみくさ)と発音するそうです。
水草の種類
現在判明している範囲で分類上は
コケ植物11科22属およそ111種、
シダ植物8科11属およそ159種、
種子植物76科406種およそ2518種、
合計95科439属およそ2788種が水草です。
植物全体の種が27,000種と言われているので水草はわずか1%。
(田中 法生 『異端の植物「水草」を科学する』より)
水草の4形態
水草には以下の形態がある。それぞれの状態を環境によって移行するものも存在する。
抽水植物(ちゅうすいしょくぶつ)
水上に葉や茎を突き出しているもの。地中に根を下ろしてしっかりと固定する。
ハス、ショウブ、オモダカ、ミズアオイなど
浮葉植物(ふようしょくぶつ)
葉を水面に浮かべているもの。空気を取り込む気孔は葉の表面にできます。重力から開放されているため光合成に有利な大きな葉を作ることができます。水草で最大のオオオニバスなどが代表的な例です。
スイレン、ジュンサイ、ガガブタなど
沈水植物(ちんすいしょくぶつ)
葉や茎がすべて水中にあるもの。水中の二酸化炭素や栄養素を水中から得ることができる。
クロモ、ガシャクモ、カワツルモなど
浮遊植物(ふゆうしょくぶつ)
固着せずに水中に浮遊するもの。
ホテイアオイ、ウキクサ、マツモなど
水草に見られる特徴
浮嚢(ふのう)
浮嚢とはホテイアオイなどに見られる空気を含んで浮力を持った葉茎?(ようけい)のことです。スポンジのような構造になっています。
毛もしくは毛状突起
ハイドロリザ・アリスタータの表面には微細な毛がびっしりと生えており、空気の層を作ることで葉が上向きになるのを助けています。
またハスやサンショウモの毛は撥水性があり、水没したり、葉の表面にある気孔が濡れて呼吸できなくなるのを防いでいます。
この表面張力によって撥水性を得ることをロータス効果という。
通気孔
スイレンに見られる空気を茎や根に行き渡らせるためにある空気の通り道。レンコン?の穴もこの一部。
他の水草も水中で直立するために、多くの種で空気の層があるものが存在します。
水草特有の葉の種類
水草は環境に合わせて抽水葉、浮葉、枕水葉、浮遊葉の形態を持ちます。
抽水葉(ちゅうすいよう)
抽水状態の水草が水面に出す葉のこと。アクアリウムでは一般的に水上葉と呼ばれている。
浮葉(うきば)もしくは(うきは)
水面に浮いた状態の葉。浮遊葉と区別するために、根は土に根付いていて葉だけ水面に浮いたものを浮葉とする。
枕水葉(ちんすいよう)
完全に見ずに水没した状態の葉。一般的に水上葉より葉が薄く大きく広がる場合が多い。アクアリウムでは水中葉と呼ばれている。
浮遊葉(ふゆうよう)
根付くこと無く水中に漂う状態の水草が付ける葉。マツモやリシアに見られる。
異型葉(いけいよう)
環境に合わせて種類の違う葉を出す種もあります。環境によって異なる葉の形態を取ることを異型葉?と言います。
水位の変動が下がると抽水葉、水位が増すと枕水葉と言った具合に適応することは、水辺に生きる水草にとって重要な生存本能と言えます。
またアクアリウムでは抽水葉を水上葉(すいじょうよう)、枕水葉のことを水中葉(すいちゅうよう)と言います。
食中植物
特殊な水草の例としてタヌキモ属とムジナモ属の一部に食虫植物が存在します。タヌキモの仲間は葉の一部が変形した捕虫嚢(ほちゅうのう)と呼ばれる器官があり、虫を捕獲、吸収します。
ムジナモは葉を挟むことで虫を捕らえ酵素で分解して吸収します。
水草特有の子孫の残し方
コケやシダの仲間以外の水草は花を咲かせて子孫を残します。
その中でもほとんどが水上に花を咲かせるタイプです。花粉の多くが水分や水蒸気に弱いため、受粉の方法は水中で生息する水草にとって重大な問題です。
水上に花を咲かせるタイプ
水上に花を咲かせるタイプは「虫媒?(ちゅうばい)」と「風媒?(ふうばい)」で受粉します。沈水性の植物でも多くは受粉だけ「花茎?(かけい)」を伸ばして水上で行います。
もっとも一般的なタイプと言えます。
虫媒を行うタイプは色彩豊かな花や「仏炎苞(ぶつえんほう)」など、見た目に鮮やかなものが多い。
風媒を行うタイプは少しの振動でも大量の花粉を飛ばす性質を持ちます。
水中に花を咲かせるタイプ
水草独特の受粉方法として「水媒?(すいばい)」が挙げられます。そのなかでも完全に水没した状態で受粉するタイプを「水中媒?(すいちゅうばい)」。水面で受粉するタイプを「水面媒?(すいめんばい)」といいます。
水中媒はリュウキュウスガモ?が知られていて、一斉に産卵するさまはサンゴの産卵に似た神秘的な光景だといいます。
水中媒はトチカガミ科のウミヒルモ属、イバラモ属。アマモ科、シオニラ科、ポシドニア科の全種。ヒルムシロ科のイトクズモ属、マツモ科が知られています。雄しべの「柱頭(ちゅうとう)」が長く受粉しやすいように進化しています。
水面媒はカワツルモ属、ヒルムシロ科のリュウノヒゲモ、コカナダモ属が知られています。水中に三次元で広がるよりも、水面で二次元的に受粉するほうが有利だと考えられています。多くの種で水面媒の方法を取りますが、その起源はバラバラで多くの科から派生しています。そのような異なる起源から同じ進化をすることを「収斂?(しゅうれん)」といいます。
自身のクローンで子孫を残すタイプ
越冬や乾季を乗り越えるために「塊茎(かいけい)」という茎を肥大化させたものに栄養をためて環境が整ってから新芽を出すタイプもいます。
ほかにもマツモは冬場に水温が下がると「殖芽(しょくが)」と呼ばれる器官を切り離して水底に沈め、暖かくなってから芽を出します。
水草の種子
水草の種子は水面に浮いて移動するタイプがあります。種自体が浮いて水面を移動するものもあれば、果肉に空気が含まれ腐ると水に沈む仕組みのものもあります。
他にも鳥に付着、もしくは食されることで移動するタイプ、水草自体が千切れて移動するタイプも知られています。
また水草の種の中には地中で低酸素状態で保存されることで時を超えて発芽するものがあります。有名なのは大賀ハスです。今から2000年以上昔の種が採取され、発芽しました。
生態系における水草の役割
土の中では魚やプランクトン、水草などが枯れたり排出した有機化合物が生成されます。
それらの有機物がバクテリアによって分解される際に「アンモニア態窒素?(NH4+-N)」、「亜硝酸態窒素?(NO2--N)」、「硝酸態窒素?(NO3--N)」へと硝化されます。また水中ではそれぞれ「アンモニウムイオン?(NH4+)」、「亜硝酸イオン?(NO2-)」、「硝酸イオン?(NO3-)」の状態で存在します。
アンモニア態窒素は「アンモニウム体窒素」「アンモニア性窒素」「アンモニア態窒素」と表記されることもあります。
これらの物質は生体にとって有害なため、アクアリウムではフィルターや換水による速やかな硝化や物理的な除去が必要になります。
水草は「アンモニア態窒素(アンモニウムイオン)」や「硝酸態窒素(硝酸イオン)」を養分として吸収します。水草による吸収は清浄な水系を維持する上で重要な役割を持ちます。
アクアリウムの場合は水槽という限られた空間です。そのため水草がそれぞれの物質を肥料として消費することは、水の富栄養化を防ぐのに重要な役割を果たしています。
文献
参考文献
田中 法生 『異端の植物「水草」を科学する』。ベレ出版。ISBN 978-4860643287。